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第10回せんがわ劇場演劇コンクール/公社流体力学【受賞公演稽古場インタビュー&レポート】(後編)受賞公演作品『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』について

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仙川町・緑ヶ丘
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昨年の第10回せんがわ劇場演劇コンクールで、並みいる強豪を押しのけてグランプリを受賞したのは、知名度や受賞歴ではダークホース的な存在だった──。
衣裳もセットもなく、たった一人、決して饒舌ではない早口で話し出すと、観客と審査員を「ハラハラのち笑い、そして謎の感動」の境地に引き込んだ公社流体力学さん。「美少女」をキーワードに、荒唐無稽な物語の中に少しずつ、本当に重要なことが見えてくる展開は圧巻でした。
受賞公演に向けた稽古場へ伺い、稽古を拝見しつつ、これまでの道のりと今回の創作についてを、演劇コンクール企画監修の徳永京子さんとたっぷりお聞きしました。前編と後編に分けてお楽しみください。

第10回せんがわ劇場演劇コンクール・グランプリ受賞公演/
公社流体力学【朗読見世物】『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』
https://www.sengawa-gekijo.jp/kouen/23702.html

稽古場インタビュー
(前編)グランプリ受賞まで
(後編)受賞公演作品『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』について

※こちらの「インタビュー&レポート」は公演の延期発表前の3月末に作成されたものです。
公社流体力学さんの作風や考え方を紹介したく、内容をほぼ変更せずに公開します。

(後編)受賞公演作品『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』について

『マン・オン・ザ・ムーン』にもらった勇気

徳永:今度の作品(【朗読見世物】『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺
   人』)は、昨年のグランプリ受賞後、初めての公演ですよね?

公社:そうですね。

徳永:創作にあたってプレッシャーはありますか?

公社:もう、あとは野となれ山となれの気分で、白装束を着て打ち首を待つ近藤勇
   の気分です。いやもちろんちゃんと責任感を持ってやりますけども、もう、
   始まってしまったものはしょうがない、大丈夫だと思っています。まあ、
   「オルギア視聴覚室」の自由なパフォーマンスの数々を観ていて、「あ、大
   丈夫だ」っていう自信を貰いましたし。

   最近、さらに勇気を貰った作品があるんです。ずっと前からみたかったジ
   ム・キャリー主演の『マン・オン・ザ・ムーン』という映画で、これは本当
   に感動してしまって。
(2020年7月追記)
   ジム・キャリー演じるアンディ・カウフマンは実在の人物で、人から見れば
   コメディアンなんだけど、本人はあくまでも、自分が面白いと思ったことを
   するパフォーマーなんです。とにかく尖った笑いしかやりたくない、世間が
   求めるようにのせたなんてことなんかやりたくない、常に斬新なことだけや
   っていきたいという方で。
   それで、どんなにウケなくても理解されなくても本人は「やってやった
   ぞ!」という顔をしてるんです。それを観たときに「うわぁ、かっこいいな
   ぁ…」と。「俺はもう何をやってもいいんだ!」「たとえお客さんが帰った
   としてもやり切ればいつかは映画になる!」という想いを胸に抱いて。

徳永:その方向性でいきたいと(笑)。

公社:はい、この方向性で。
   (公社流体力学による注釈:カウフマンは笑いのために倫理観を放棄してい
   たがそこだけは真似しないように気を付けます。)


勢いと編集

徳永:創作は、最初にどう着想を得て、それをフルサイズに仕上げるまでにはアイ
   ディアをどこから集めて取捨選択をされるんですか?

公社:うーーーーん、そこまで論理的に考えてやってはいないんですけど、基本的
   な方向性としては、僕は普段から日常会話がやたら長くなる人間なんですけ
   ど、それでとにかく「うわーーー!」と喋って「大体一時間くらいかな?」
   みたいな感じでやってんですけど…。

徳永:それだけお聞きすると、かなり雑ですが(笑)。

公社:その中で「これは明らかに冗長だろうな」といった部分をカットしていきま
   す。怪談とかでも、実際に聞いた話をそのまま話すのではなくて、核の部分
   だけを切り取ったりもしますし、そのままだとヤバすぎるので人前で話せる
   程度にマイルドにする、みたいな編集方法もあるんですね。なので、おもし
   ろい部分だけをひと通り話してみて、「長えな」と思ったら(更に)おもし
   ろい部分だけを切り出して、なんとか一時間以内に納めます。

徳永:ということは、ある程度、話が形になってきたら録音か録画をして、自分で
   チェックして手を加えていく?

公社:そうですね。でも結構な部分をアドリブでやったりもするので、「そろそろ
   時間的には終盤なのに、話はまだ中盤までしかたどり着いていない」みたい
   なことも過去にはありまして…。予定よりも30分長くなってしまったことも
   ありました。せんがわでは絶対にそんなことにならないように頑張ってやり
   ますけれども…。

公社流体力学の「小ネタ」

徳永:ということは、毎ステージ細部がちがうんですか?

公社:そうですね、さすがに「オチが違う」ということにはならないんですけど
   も、小ネタが毎回違う、という感じですね。たぶん世間の人は公社流体力学
   について「コメディの人」というイメージが強いとは思うんですが、僕はコ
   メディではなくて、ただただシリアスに小ネタを入れないと死んじゃう人間
   なんですよ。
   そしてこの小ネタがね、その時の気分で変わるんですよ。とにかく小ネタを
   入れたいんです! 日常会話でも小ネタを入れたがるので、相手に伝わらず
   に変な空気になることもあるんですけども…。

   先のせんがわ劇場演劇コンクールでは、入れようか入れまいかすごい悩んで
   いた小ネタがあったんです。でも先ほども話したように当日すごいウケたの
   で、急遽村上ショージさんの「何を言う、早見優!」っていうギャグを入れ
   たんです。村上ショージさん、僕大好きで。そしたらウケたので「やっ
   た!」ってなりましたけど、そういうあれですね、村上ショージさんとかそ
   ういう。

「コズミックホラー」から「密室ミステリー」へ

徳永:今回、この作品を上演しようと思ったのは?

公社:「これをやるしかないな」っていう想いがあったのと、やっぱり「いかにし
   て素舞台でスケールのでかいことをやるか」ということにこれまで血道をあ
   げてきたということがあるんです。たとえば怪談にしても「素舞台でどれだ
   け怖いことができるか」という側面もあるわけですけれども。せんがわ劇場
   演劇コンクールの時も「もうこういう広いところでやるのは最初で最後だろ
   う。じゃあ一番広いやつをやろう、それはコズミックホラーだ!」というこ
   とで『美少女がやってくるぞ、ふるえて眠れ』という作品を上演したんです
   ね。その「コズミックホラー」を超えるものは何か?と言われたら、それは
   「密室ミステリー」だよなぁ、と思うんです。

徳永:そうなんですか?(笑)。

公社:たぶん「コズミックホラー」以上に「密室ミステリー」って舞台のセットが
   必要じゃないですか。それを素舞台でやったらおもしろいだろうなぁ、って
   (笑)。

徳永:ああ、具体的なディテールを問われる分、素舞台でするには「密室ミステリ
   ー」のほうが難しいということですね。

公社:基本的に僕は「無理だろうな」ということこそやりたがる人間なので。
   いわゆる、世間の人が理由があってやっていないことを「あ、これ誰もやっ
   てないじゃん、俺やーろう!」ってやるタイプの人間なので…。まあそうい
   う感じですね、「コズミックホラー」を超えるのはもう「密室ミステリー」
   しかなかったと。

徳永:ミステリー小説がお好きとのことでしたけど、今まで密室を扱ったことは?

公社:ないですね。今回、作品の元となる話に出合えたのが良かったです。本当に
   感謝です。

徳永:その出合いというのは?

公社:渋谷にRUBYROOMっていうバーがありまして、そこでやってる「SPIRIT」
   というオープンマイクのイベントでお話を聞いて、「これだ!」となりまし
   た。


素舞台でいかにスケールの大きなことをするか

徳永:先ほどの「素舞台でいかに大きいことをするか」というのは、いかに観てい
   る人の脳内に大きい空間を立ち上げるか、想像力の飛翔度を上げられるかと
   いうことですよね?

公社:そうなんです。

徳永:そのために公社さんの中で、お客さんの頭の中にビジュアルを立ち上げてい
   くセオリーのようなものってあるんですか?

公社:中学の頃に落語が好きで、やっぱり落語って「長屋がこれくらいで」とか
   「ご隠居さんの家はこんな感じで」って情景が見えるじゃないですか。もち
   ろん噺家さんの所作や手ぶりもあるんですが、なんでそんな情景が見えるん
   だろうって考えた時に「とにかく動きは大振りに、でも説明は詳細に」って
   いうところに行きついたんです。それが演劇コンクールでやった作品の「大
   宮駅のタピオカ屋の詳細」(※)というような部分にも繋がってくるんで
   す。
  (※コンクール受賞記念インタビュー参照
    https://sengawagekijo.tamaliver.jp/e467261.html)

公社:落語スピリッツを胸に「大きい所作と細かな説明」、これですね!!

徳永:落語というのは、公社流体力学を理解するキーワードかもしれないですね。

公社:あとは気合です!!

徳永:好きな噺家さんは誰ですか?

公社:今は木久扇さんですが、当時の林家木久蔵さんが好きでした。中学の図書館
   に『林家木久蔵の子ども落語』(フレーベル館 1998年 全十巻)という本が
   入っていて、それを狂ったようにずっと読んでいました。「おもしれー
   ー!!!!」って。その後に実際に木久蔵さんの落語を何本か聞いてみたり
   して。

   高校に入ってからは落語から距離をとって怪談ばかり聞いていたんですが、
   オルギア視聴覚室に出演されている地蔵中毒に立川がじらさんっていう落語
   家さんがいらっしゃって、その方の勉強会を聴きに行ったんですがそれもも
   のすごくおもしろかったです。落語なのに、急にメタSFになったりして。

小ネタを伝えるためだけに

徳永:「所作は大きく、説明は細かく」という心がけのほかに、話す順番について
   は何か気を付けている事はありますか? というのは昨年コンクールで拝見
   した時に、どんなに思い付きを話しながらも、物語を伝えるための芯はかな
   り冷静にハンドリングしているという印象を受けたんです。

公社:そうですね、そこまで意識しているかというとそんなに強い意識はしていま
   せん。ただ、普段も小ネタが伝わらない場合に何とかして言葉と動きで必死
   で伝えようとするのが僕の日常生活なので、たぶん体に染みついているんだ
   と思います。必死で説明しないと伝わらないような小ネタを常日頃している
   という、そこが友達が少ない理由かなとは思います。

徳永:小ネタに行き過ぎたとしてもきちんと本筋に戻ってこられるのは、その賜物
   かもしれませんね。

公社:伊達に小ネタだけをやり続けて26年じゃないですからね。子供のころからみ
   んなに「なんか知らない話してるー!」って言われ続けてきました。それが
   いま確実に花開いています。


公社流体力学のあたまの中

徳永:先ほど稽古で拝見したシーンの「この場所に◯◯があって、いくつ目の扉を
   開けると△△があって」という描写は、本を書いている段階で、舞台となる
   お屋敷の絵を実際に描いたりするんでしょうか? それとも頭の中にリアル
   なイメージが入っていて、それをなぞる感覚ですか?

公社:今回に関しては半々ですね。人から聞いたその実話の間取りを絵に描いてみ
   たりもしますが、あくまで聞いた話で僕自身は実際にその部屋を見たわけで
   はないので、間取りだけ聞いた通りのもので、(話に出てくる)絨毯やシャ
   ンデリアや斧については、ある程度、自分で想像して話していきます。
   でも想像力だけでやろうと思うと脳が疲れてしまうので、一回描いてみると
   やっぱりはっきりしますね。台本も、頭の中だけでストーリーを進めて稽古
   していると、脳の限界を超えてしまうので、一回文字でアウトプットしてみ
   るとだいぶ整理されるのと同じですかね。

徳永:整理のために絵や文字でアウトプットするときはモノクロだと思いますけ
   ど、頭の中にはもっと細かいディティールがある?

公社:もうフルカラーです。

美少女は、幽霊

徳永:その時、美少女はどういうイメージなんでしょうか?リアルな人間の形をし
   ているのか、あるいは、いわゆる二次元のような感じですか?

公社:基本的には二次元寄りなんでしょうけど、実はこれといったビジュアルはな
   いんです。幽霊のようにフワフワしていて。だから正直、僕の理想の美少女
   を描いてって言われたら、困っちゃいますね。たとえば自分の好きなアニメ
   のキャラクターに似せて描くことはできるんですけど、それはただアニメの
   キャラっぽい絵を描いているだけなので…。

徳永:面白いですね。場所や小道具は細かいところまで具体的にイメージするの
   に、そこにいる美少女には、明確なイメージがない。

公社:実際に会った人であれば、ある程度は具体的なイメージはできますが、会っ
   ていない人の場合は「幽霊」といった方が正しいかもしれません。

徳永:コンクールで上演した作品では、美少女について説明する時に「ショートカ
   ットで目つきはこうで」とディティールがありましたが、あれもやはり半ば
   幽霊のような存在なんでしょうか?

公社:そうですね。ただ、あれは実話です!

徳永:え、実話!?

公社:実話です。ブラックホールに行きました。

徳永:そこも実話(笑)?

公社:はい。でも基本的には幽霊のイメージです。だからイラストを描ける人って
   本当にすごいなって毎回思うんです。僕が描こうとすると本当に小学生みた
   いな感じになってしまうんですけど、それでも諦めずに描きますがそれでも
   なかなかね…。

徳永:ということは、公社さんの作品に登場する美少女は、自分の好みを反映した
   存在ではないんですね。

公社:そうですね。

徳永:むしろ具体的に形にしようとすると逃げていく感じというか。

公社:はい。

自分の好みは捨てる

公社:それに二次元にしろ三次元にしろ、僕が「魅力的だな」と思うものって、い
   わゆる一般的魅力的とされるものと少しタイプがちがうんですよね。
   たとえば僕少女漫画が好きでよく読むんですけど、いわゆる「おさげで眼鏡
   をかけた地味な女の子が、眼鏡をはずしておさげをほどくと急にきれいにな
   った!」みたいなのがあんまり好きじゃないんです。「え、眼鏡ってそんな
   にダメ?おさげってダメ? いやいやいや…」って思っちゃうんです。

徳永:ステレオタイプな基準に抵抗があると。

公社:はい。いわゆる「眼鏡、おさげ=ダサいもの」っていうようなあの風潮が苦
   手で。その人自身が「これがいい!」って思ったスタイルであればそれが一
   番いいんですよ!!
   なので僕も創作の際は「俺はこういうスタイルが好きだからこうする!」で
   はなくて、「こういうキャラクターであればこういうスタイルだろう」と考
   えていったり、現実の人をモデルにしたりもするので、極力、作品の中では
   自分の好みは捨てますね。他の完全創作の時には全然自分の好みじゃない美
   少女を描いてみたりする試みもしています。

徳永:講評でもお伝えしましたが、公社さんの作品が、美少女至上主義でありなが
   ら、フェミニズムに引っかかるような男性側からの理想の押しつけがないの
   は、そういうところが理由なんでしょうね。

公社:僕は「ありとあらゆるものを見たせい!」をやっていて、もはや自分でもよ
   くわかんない感じになっちゃってるという、「好き」の方向性が360°という
   感じです。
   過去に一度「眼鏡ってそんなにダメか!」っていう思いの丈を詰め込んだ作
   品を上演して大いにスベる、スベりにスベるっていう惨劇も体験したことが
   あるので、あんまり思いが強すぎるのもダメなんだなというのも学びまし
   た。ほどほどですね…。


僕の話に反応してもらえると楽しい

徳永:コンクールで拝見した時も、あるいは今日の稽古を拝見しても、お客さんと
   のコミュニケーションをすごく大事にされていますよね。

公社:以前、「観客のことを全然見ていない!」って言われたことがあったんで
   す。
   「じゃあ、観客のことを見てやろうじゃないか!」「どうすればいいんだ、
   あ、喋りかければいいんだ!」というので今に至っています。
   単純な発想なんですが、やっぱり僕の話に反応してもらえると楽しいですか
   ら。どんどん楽しませよう、楽しませようという思いが出てきますね。自分
   が死ぬまでの会話はすべて楽しい話ばかりしていきたい人間なんですよ。

徳永:じゃあ普段から人の悪口も言わない?

公社:ああ、嫌いですね、そういうのは…。

徳永:偉いですね!

公社:でも、友達と会ってつまらない作品とか、おもしろくない作品の話になる
   と、「なんであれってああなの?」みたいな話をすることはありますね。M-
   1グランプリや、R-1グランプリの時なんか特に。この間のR-1グランプリで
   もそういう話ですごく盛り上がりました。「これはほしのディスコがファイ
   ナルステージに行くべきだったでしょ!!」って、すごいおもしろい芸人さ
   んなんですけどあっさり一回戦で落ちちゃってて…。
   そういった作品の評価について悪いことを言ったりしますけど、人間的な攻
   撃は嫌いですね。作品評価の時も感情じゃなくて、具体的に何がどうおもし
   ろくなかったかという話を僕はしたいです。「よくわかんねえけどつまんね
   え!」みたいな暴力的な評価じゃなくて、「あそこはこうすればおもしろか
   ったのに、こうしなくてこうだからつまんないんだ」という風に論理的に話
   すということを大事にしています。
   自分が「嫌いだ!」って思っても世の中にはそれを好きだという人がいるの
   で、その人に対しての敬意は忘れずにいたいんです。

絶対的に面白い作品も、つまらない作品もない

公社:というか、基本的に僕が好きだというものは大体誰かが悪口を言ってるんで
   す。
   漫画も、僕が好きな漫画ほど早く打ち切られるんですよ。なので、そういう
   想いは大事にしていこうと思っています。
   近いところでいうと、先のかながわ短編演劇アワードの戯曲コンペティショ
   ンで『バナナの皮悲劇』(作・伊東翼/天ぷら銀河)がぶっちぎりで一番好
   きだったんです。「これが優勝するだろ!」と思って審査会を見たら△が一
   票入っただけでした。ただその時の僕の予想の二番目が受賞作の『瞬きのカ
   ロリー』(作・大竹竜平/チーム夜営)だったので、それはよかったです。
   …っていう風に、僕の絶賛は世の中の評価と少し違うんです。

徳永:そういう人は実は多いと思うんです。でもその中には「世の中が分かってな
   い」と考える人も少なくないですが。

公社:高校生から大学時代のはじめぐらいはそう思ってましたけど、あまりにも僕
   の好きなものが世間に受け入れられないので「そういうもんだ」って思うよ
   うになりました。「俺の好みがねじ曲がってるんだ」って。

   大学に入って、いわゆる”名作”と呼ばれる小説を読んだり映画を観たりアル
   バムを聴いたりしましたけど「これがすごい!」と言われものに限って全然
   ピンと来ないんです。もちろん中には良いものもありましたけど「所詮好み
   だな」ということを学んだのが大きいですね。だから僕は本当にこの世で
   「絶対面白い作品なんて存在しない」って思っていますし、逆に絶対につま
   らない作品もないと思っています。

徳永:好みは相対的なものだということですね。

アニメ『くまみこ』について

公社:ちょっとマニアックな話になりますが昔『くまみこ』っていうアニメがあっ
   たんです。喋るくまと女の子の話なんです。主人公の女の子が「東京に行き
   たい!」って言うんですけど、喋るくまは女の子に田舎にいてほしいから邪
   魔をするというか、いろいろ試練を与えたりするんですね。それで最終回が
   かなりの問題作で。すごかったんですよ、周りの反応がもう親の仇を見るよ
   うな…。
   でも僕は「いや、それもわかるけど、俺は好きだよ」と思ったんです。ダメ
   な子ほどかわいい、じゃないですけれども(笑)。あまりにもひどすぎて、
   DVD・Blu-ray化された際に最終回が書き換えられたんですよ。
   だから二度と観られないと思うんですけども、『くまみこ』テレビアニメ版
   の最終回を褒めてるのは俺だけなんですよ、たぶん。

   というわけで、絶対につまらない作品はないって思ってるんです。なぜなら
   (それを評価する)俺がいるから!!

徳永:公社さんは否定しない人なんですね。

公社:俺も、なんであれが叩かれてるのかよくわかるし、あれはあれで問題あると
   思うけど、「俺は好きだよ」って。最初から「衝撃のラスト!世界が反転す
   る!」みたいなキャッチコピーを付けていたらそんなにクレームは来なかっ
   たんじゃないかな…。まあ、あまりオススメはしませんけども。
   (公社流体力学による注釈:テレビ放送であそこまで無茶をする勇気と、そ
   れまでの描写がラストへの布石となる構成が個人的なツボに入った。)
   あとテレビアニメ版の最終話が流れた後に原作者の方がだいぶ含みのある言
   葉でアニメ版のとあるキャラクターについて言及していたりして、「ああ、
   あれアニメ版のオリジナル展開なのかな」って思ったりもしました。実際の
   ところはわからないんですが。そこまで『くまみこ』という作品自体に詳し
   いわけでもなくてあくまでテレビアニメ版の視聴者というだけなので、ファ
   ンの人が話したら別の意見も出るのかもしれませんが…。
   …まさか演劇コンクールのインタビューで『くまみこ』の話をするとは思い
   ませんでした。

徳永:私もここまで詳細に、作品と直接は関係のないアニメの話をお聞きするとは
   思いませんでした(笑)。

誰かの星5つでありたい

公社:でも似たようなことは多々あって、僕が「ああおもしれぇな!!」と思った
   作品のAmazonの評価を見ると星2.5だったりとか。「俺は星5個でも足りな
   いくらいだよ?なのに2.5?」って(笑)。ひどい時だと星1つとか。

   なので公社流体力学、もしかしたら星1つの作品をつくる場合もあるかもし
   れませんが、誰かの星5つになると信じて…!
   アンディ・カウフマンの精神で僕はやりたいと思います!

徳永:5月の公演への期待に不安が混じってきました(笑)。

公社:胸にアンディ・カウフマンと『くまみこ』を抱いて…。

   こういうことを言うとB級作品好きみたいに思われるかもしれませんが、普
   通に世間一般の評価が高いものも好きですのでね。『七人の侍』を観たらや
   っぱりすごかったですしね、「全国民観るべきだ」って思いました。現・松
   本白鴎さん(九代目 松本幸四郎)の『アマデウス』を観て非常に感動した
   こともあります。

   なので決して変わったものだけが好きなわけではありません。『七人の侍』
   は好きだし松本幸四郎さんは凄かった。たまたま自分の好きなものと世間一
   般の乖離が激しいことが多いだけ、です…。逆にそんなに苦手なジャンルと
   いうのもありません。


受賞公演に向けて

徳永:では、そろそろ公演への意気込みをお伺いしたいのですが。

公社:会場の大きさで言えば、普通ならホップ・ステップ・ジャンプと行くところ
   を、いきなりジャンプするようなもんなんですね。もちろんたくさんのお客
   さんに来てほしいので、大きい劇場でできるのはうれしいのですが。…あと
   はもう頑張ろう、と。

徳永:何に対して頑張る?

公社:世界のすべてに対してです、もう。もちろん宣伝も頑張りますし、アドリブ
   のブラッシュアップをすることも。

   僕はヒップホップを聴くのが好きなんですが、ヒップホップのフリースタイ
   ルというのも自分の表現に近いんじゃないかと思うんです。ラッパーの人た
   ちもサイファーでぐるぐるやりながらスキルを磨きながら、何を言われても
   「やってやんぜ」という構えですよね。そこを磨いていきたいと思います。

   公社流体力学a.k.a.太田日曜の「a.k.a.」は、ヒップホップのアーティスト
   「漢a.k.a.GAMI」っていうレジェンドからどーんとパクってきましたの
   で。
(2020年7月追記)
   公演延期している間にまさか漢さんが2回逮捕されるとは・・・

徳永:毎ステージが『フリースタイルダンジョン』(ラップのバトル番組)だと思
   って頑張ってください。

公社:はい、もう、やっていきます。クリティカルを決めていきますので。客席全
   部に審査ボタンを置きましょうか…。そんなお金ないですね…。

(2020年3月某日 埼玉県某所にて)

稽古場レポート

昨年の演劇コンクール、最後の出番だった公社流体力学は、言うなれば本当に"素手"でした。素舞台に現れた彼は音響も照明も舞台美術も衣装もなく、その身一つでひたすら喋り続け、二日間にわたる審査ですこし疲れていたはずの客席を笑いでドカンと満たし、そのまま爽やかにグランプリ(と俳優賞)をかっさらっていきました。

審査員の杉山至氏をして「令和の演劇」「爆弾!」と言わしめた彼の演劇がどうつくられているのかを確かめるため、このたび稽古場へ向かいました。

「アップをしないまま舞台に上がって足を攣ってしまった」という経験から、稽古は入念なアップから始まりました。そして気が付くと何やらぶつぶつとつぶやいていて、いつの間にか本編の稽古が始まっていました。



こんなことを言うと身も蓋もありませんが、「6割つくって4割アドリブ」という公社流体力学の作品がどんなものかを確かめるのに一番いいのはその場に行って観ることです。刻々と移り変わり、ともすれば毎ステージ変わるともいう細部の数々はまさにライブアートです。

公社流体力学の上演には、目の前の観客との掛け合いの中でそのイメージや情報を捕まえたり、時にぶん投げたりしながら、物語の中と外、舞台と客席の区別なく気が付くと公社流体力学と一緒にそのお話を体験しているかのような没入感があります。

誤解を覚悟でいえばこれは原初のVR演劇です。
観客のわたしたちは夢の中のどうしようもできない不自由さを、誰も知らない”夜色”の青を、解けるはずのない密室の謎を解くもどかしさを、「美少女朗読見世物」というスタイルで男一人がワーキャー騒ぐことによって共に体験することになります。

今のこの世界の深い混乱の中にあって、奇しくもこの公社流体力学の演劇が「令和の演劇」と名づけられたことの意味を思います。

誰とも集まることなく、一人ぶつぶつと自分の部屋で黙々と稽古をしている俳優が、一体どれほどのスケールの物語を描こうというのか。

公社流体力学【朗読見世物】『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』、乞うご期待です。



ぜひ一人でも多くの方に、劇場に足を運んでいただければと思います。


■インタビュアー:徳永京子
■稽古場レポート・編集:松本一歩(平泳ぎ本店/第8回せんがわ劇場演劇コンクールファイナリスト)

(前編)グランプリ受賞までこちら。

公社流体力学 プロフィール

美少女至上主義を掲げて一貫して美少女を称えている。
美少女とは概念であり物質は関係ない。
独自に編み出した表現手法である「朗読見世物」は、「面白い朗読」「一人芝居」「漫談」「声大きめの独り言」等さまざまに評される。
公社流体力学としての活動の他、映像や別劇団への脚本提供等もしている。

◆公社流体力学 公式ホームページ
https://koushayuutai.web.fc2.com/
◆公社流体力学 Twitter
https://twitter.com/Kryuutai?s=20
◆公社流体力学 YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCjOVXN_BQwgXdEKZ-ZwHlag